アメリカ合衆国東部、アパラチア山脈。
穏やかな曲線を描く優美な山容はどこか日本の山々にも似ているが
その谷は深く、かつて開拓者たちの西進を阻んだきた険しい山。
革新的な北部と保守的な南部との対立 -南北戦争- を狭間で見つめてきた
アメリカに屹立する歴史と文化の分水嶺。
この山脈の南方、「Deal’s Gap」と呼ばれる谷を
南北にまたぐように走る国道、US129号線。
11マイル(約18km)の間に318のカーブがあることを喧伝する
この全米でもっとも曲がりくねった道は
「Tail of the Dragon (ドラゴンの尾)」の異名を持つ。
そのドラゴンの尾を中心に、近辺には
CHEROHALA SKYWAY(チェロハラスカイウェイ)、
MOONSHINER 28(ムーンシャイナー28)など、同様の異名を持つ道が散在している。
中にはDEVILS TRIANGLEなど、やや大げさなあだ名を付けられている道もある。
その威圧感のある呼び名とは裏腹に、
周辺は「Deal’s Gap Motorcycle Resort」という
ロッジやカフェ、キャンプ場、ガソリンスタンドなどが整備された
ツーリングスポットになっており、老若男女のオートバイ愛好家が集う。
弾丸のようにかっ飛ばしてゆくスポーツ車から、
大河のようにゆったりと流してゆくクルーザーまで、
よく整備された美しい山道を、それぞれのペースで走っている。
パーキングの一角にある 「Tree of Shame」。
不幸にも「ドラゴンの尾」に打ちのめされたライダーたちは、
立ち上がり、再び走り始めたモニュメントとして、壊れた部品をこの木につるして行く。
羞恥の樹、あるいは慙愧の樹とでもいうのかだろうか。
自嘲を込めた言葉は「No gain, a lot of pain!!!!」 -痛いだけ、得るものなし!- 。
北へ行く道はダム湖の横を掠めるように走っている。
ライダーたちはエンジンを切り、ゆっくりとヘルメットを脱いで
空を仰ぎ、笑い、語り合う。どれほどの距離を走ってきたのだろうか、
ゆっくりと、どことなく重たそうに体を動かしてオートバイから降りる。
アパラチア山脈周辺には他にも稜線に沿って走る長く、美しい道があり、
古き良きアメリカ南部 -それは白人社会からの一方的な見方にすぎないが- を
肌で感じながら走っていくのは非常に感慨深い。それはまた別の機会に。