「パタゴニア」という言葉を聞いて、何を思うだろうか。
風。荒野。奇岩。山。平原。雪。湖。氷河・・・
南米大陸の南緯39度以南、もしくはネグロ川以南の地域の総称をパタゴニアという。
アンデス山脈によってチリ領とアルゼンチン領に二分される。
西のチリ・太平洋側は南極海からの冷たく湿気を含む風が
アンデス山脈にぶつかり、風雪雨が氷河や湖を形成し、
東のアルゼンチン・大西洋側は水気を失った冷たい空っ風 -それも台風並みの- が
アンデスを越えて年中吹き降ろし、寒く乾いた平原が地平線まで続く。
この平原を南北に駆ける超ロングダート「Ruta40/ルタ・クアレンタ」がある。
Rutaはスペイン語で「国道」、つまり「アルゼンチン国道40号線」だが、
この単純な単語をツーリストが口にするときは
いつもそこに畏敬か畏怖が含まれているように思う。
道幅の広い浮き砂利ダートが延々と続き、
百キロ走ってもすれ違う車はなく
途方もない広漠に方向感覚も麻痺し、
常時冷たい風が西から吹きつけるため
時々自分が走っているのか停まっているのかさえも曖昧になる。
緯度が高いために太陽の位置があまり動かず
時間の感覚も朧になり、違う惑星に迷いこんでしまったかのような錯覚。
地平線に陽は沈み、地平線から陽はまた昇る。
この壮絶にして鮮烈を見るだけでもパタゴニアに来る価値は、ある。